top of page

【オープンレター】大切なものを守りながら、私たち一人ひとりのちがいを力にするー富山県の多文化共生条例・基本計画の素案に寄せて

11 時間前
読了時間: 9分

富山県では現在、多文化共生に関する条例および基本計画の策定に向け、パブリックコメントを募集しています(https://www.pref.toyama.jp/140631/comment/publiccomment.html)。


この度、アレッセ高岡の理事長、青木由香が富山県へ提出するパブリックコメントを、広く県民のみなさんにも読んでいただきたいと考え、オープンレターとして公開します。


この文章が、富山県の未来について、それぞれの立場から考え、対話するきっかけの一つになれば幸いです。


富山県のパブリックコメント募集は令和8年10月7日(水)までです。


******


 私は、外国にルーツを持つ子どもたちの学習や進路を支援する立場から、本条例の制定に賛成します。富山県が目指すウェルビーイングの向上には、県民一人ひとりが大切にされ、自分らしく力を発揮できることが欠かせないと考えます。本条例案は、富山県に暮らす人々を、国籍や文化的背景などのちがいで排除することなく、同じ「県民」として捉えた上で、誰ひとり取り残すことなく、それぞれの良さを活かしながら、ともに力を合わせてより豊かな富山県を築いていこうーーそのようなスタンスに貫かれており、日本人住民を「支援する人」、外国人住民を「支援される人」と固定的に捉えず、互いに支え合う関係を大切にしています。これは非常に重要な視座であると考えます。

 これらのことを踏まえ、地域が育んできた大切なものを守りながら、人々のちがいを力にし、ともに幸せに暮らせる富山県をつくり、次世代の県民に受け継ぐため、以下の意見を提出します。


1.多文化共生を、富山県全体の可能性を広げる取組に

 地域のつながりを大切にし、受け継いできた暮らしや文化は、富山県の大きな財産です。一方で、長く続く慣習や価値観(社会通念)は、その意味や妥当性が問い直されないまま維持されることで、社会の変化にそぐわなくなり、人々の生きづらさや新たな取り組みの妨げにつながることもあります。人口減少をはじめ、さまざまな地域課題に直面する今、その内側で暮らしてきた者だけでは、当たり前になっていることの何が課題なのか、気づきにくい場合もあるでしょう。富山方言で言う「旅の人」が持ち込む異なる経験や視点は、地域の当たり前を見つめ直すきっかけになります。

 ここで問い直したいのは、富山県が、現在、日本人住民にとっても十分に自分らしく活躍できる社会になっているかということです。周囲と異なる考え方や経験を持つ人が、そのちがいを活かせず、可能性を諦めたり、県外に活躍の場を求めたりする状況はないでしょうか。外国にルーツを持つ人々が直面する困難は、私たちの地域にある、ちがいを持つ人が参加しにくい仕組みや慣行を浮かび上がらせます。それらを見直すことは、日本人を含めた多くの県民の生きやすさや活躍の機会につながります。

 本条例を、外国人への個別の対応にとどまらず、ちがいを持つ人が力を発揮できる富山県をつくるための基盤として位置づけてください。それは、国籍や言語・文化等だけでなく、性差・ジェンダーや年齢、障害の有無等、それぞれ異なる県民一人ひとりの幸せと、富山県の持続可能な発展に関わる重要な取組です。

 また、多様性については、新しい発想や変化を生む力ばかりが注目されがちですが、私は、地域が受け継いできたものの価値や意味を再発見する力もあると考えています。本条例を通じて、多様な県民同士の対話が進むことで、富山県が何を守り、何を次の世代へ手渡していきたいのかが、より明確になることを期待します。互いの疑問や思いに耳を傾け、その価値を確かめ合うことで、守るべきものは、以前から暮らす人だけのものではなく、日本人住民にとっても外国人住民にとっても、すべての県民にとってともに大切にし、支えていきたいものになっていくのではないでしょうか。私は、そうした対話を重ねながら、大切なものを守り、ちがいを地域の力にしていく多文化共生が、富山県には必要であり、可能だと考えています。


2.県民の多様な力を発揮できる社会に

 基本計画素案12ページによると、県内の外国人労働者のうち、在留資格が技能実習の人は41.8%、産業別では製造業で働く人が42.7%を占めています。一方、同4ページでは、医療・福祉、教育、運輸、農業、建設など、幅広い分野で人手不足が課題とされています。こうした中で、一部の分野では外国人労働者を受け入れている一方、別の分野では外国人であることを理由に採用の可能性を閉ざしているとすれば、本人にとっても地域にとっても大きな機会の損失です。

 県が実施した事前調査では、外国人材の雇用経験がない企業が全体の63.4%、この内58.5%が今後も雇用するつもりはないと回答しており、その理由としては、「コミュニケーションが上手く取れるか不安だから」が34.9%と最も多く、次いで 「受入れに係る手続き(在留資格の取得、雇用管理等)が大変そうだから」が33.7%と、多くの企業において「どのように受け入れればよいのかわからない」という不安感から、外国人材の採用に二の足を踏んでいる状況が見て取れます。「よくわからない」というためらいによって、人と仕事が出会う機会が失われているとすれば、非常にもったいないことです。

 企業への支援では、すでに外国人を雇用している企業だけでなく、採用経験のない企業にも働きかけてください。「よくわからない」部分をクリアにし、不安感を取り除く手立てがあれば、県内に眠ってしまっている多くの力を掘り起こし、富山県のあらゆる分野の企業の活動を活性化し、富山県全体の活気へとつながっていくでしょう。

 また、海外から人を受け入れることとあわせて、すでに県内で生活している外国人住民や、県内の学校で学んだ外国ルーツの若者と企業をつなぐ取組を強化してください。県内で育った外国ルーツの若者たちは、ちがいとともに、幼い頃から富山県の言語・文化の中で育ち、その感覚を持ち合わせています。彼らは、ちがいを取り持ち、力に変えるキーパーソンです。

 もし外国人を、不足する人手を埋めるために使う、交換可能な機械の部品のように考えるのであれば、私もそのような外国人の受入れには反対です。外国人住民も日本人住民も、一人ひとり得意・不得意があり、興味・関心も、将来の希望も異なります。その力を見いだし、伸ばし、本人の成長と組織や社会の成長につなげることが必要です。採用人数の確保だけでなく、希望や能力に合った仕事に就けること、適切な処遇を受けること、学び直しやキャリアアップの機会を得られることを、施策の目標にしてください。そのような富山県は、日本人にとっても、ここで暮らし、働き、挑戦したいと思える場所になるはずです。多文化共生を進めることで、県外や海外で経験を重ねた人が戻ってきたいと思い、富山県にゆかりのなかった人も新たに暮らし、働いてみたいと思える地域づくりにつながります。結果として、人材の流出を抑えることにもつながるでしょう。多様な人々が行き交い、その経験や力を生かせることが、富山県の魅力と活力を高めていくと考えます。


3.すべての県民が学び続けられる教育の保障を

 教育については、格差を解消し、すべての子どもの学ぶ権利を保障するという、人道的な観点を基本に据えてください。すべての子どもは、教育を受け、自分の可能性を伸ばす機会を保障されるべき存在です。発達途上の子どもに「日本語を十分に身につけるまで」と言って年齢相応の教科の学習や就学・進学を待たせることがあってはなりません。日本語を学びながら教科を学べる支援と、日本語の習得状況だけで学力や可能性を判断しない評価の見直しが必要です。

 特に、県立高校における受検時の配慮と、入学後の日本語指導・教科学習支援の充実、それに伴う教員配置などの体制整備を強く求めます。R7年度の学校基本調査によると、富山県では、外国籍の中学生が314名であるのに対し、高校生は136名と、半数以下となっています。(また、富山県の外国籍の高校生は、その6割以上が私立高校に在籍しています。)定員に余裕があっても日本語力や学校側の支援体制不備を理由に受検を断られたり進学を断念せざるを得なくなったりすることがないよう、進路相談から出願、選抜に至る実態を把握し、改善してください。支援体制がないことを、子どもが学ぶ機会を得られないことを正当化する理由にしないでいただきたいです。

 基本計画素案18ページに、県立高校の特別入学枠の導入検討と高校の受入環境の整備が盛り込まれたことを、肯定的に評価します。これを具体的な制度と支援体制の構築に結びつけてください。特別入学枠は、言語や教育歴による不利を補い、実質的な教育機会の平等を実現するアファーマティブアクションの一環として位置づけるべきです。指導の効率化のための道具ではありません。日本語指導が必要な生徒を特定の学校に「囲い込み」するのではなく、新時代とやまハイスクール構想で企図している個性豊かなすべての県立高校に設置することを求めます。「日本語指導が必要」といっても、持っている能力や、学びたい内容、効果的な学び方、将来のビジョンは人それぞれです。その希望や能力に応じて学校を選べることが重要です。そして、各校に必要な専門人材を育成・配置するとともに、巡回指導や学校間での支援資源の共有を進め、どの高校を選んでも必要な支援を受けられる仕組みをつくってください。入学の機会を設けることと、入学後に学び続け、卒業し、その先の進路につながることを、一体として保障していただきたいです。


4.次世代に必要な能力を育成することは、未来の希望をつなぐこと

 変化が激しく、先を見通すことが難しいVUCAの時代を生きる子どもたちには、「言わなくてもわかるよね」「(日本語で)言えばわかるよね」という前提を共有していない目の前の相手と理解を確かめ合い、対話し、互いの強みを生かしながら、ともに課題を解決していく力が求められます。それは、単なる語学力の問題ではありません。こうした力は、外国にルーツを持つ子どもにも、そうでない子どもにも必要です。

 幼い頃から「伝わった」「わかり合えた」「一緒にできた」という成功体験を積むことは、将来、どのような職場や地域社会をつくるかに深く関わります。ちがいを避けるのではなく、ちがいのある相手とともに考え、行動する経験にこそ、私は未来の世界の希望を見いだしています。

 本条例と基本計画が、このような社会と教育を実現するものとなるよう、実施時期、担当部局、必要な人員と予算を具体化してください。また、外国人住民や子ども・若者を、支援を受ける対象としてだけでなく、施策をともにつくる当事者として位置づけ、その声を継続的に反映することを求めます。


 大切なものを守りながら、一人ひとりのちがいを力にする。多文化共生条例の制定をきっかけに、対話を通してそれを積み重ねることによって、富山県が、すべての県民にとって自分らしく暮らし、学び、働きたいと思える地域になることを期待します。

 
 
 

コメント


bottom of page